Day77 Germany
-Berlin
前記事にでてきた、週末のWSに参加したときに出会った日本人ダンサーと、別のスタジオでも会えた。そして、夜ごはんをご一緒することに。
始めに書こう。
彼女と話せたことは、この旅で1番強く心に残る日だと思う。
彼女は、ダンサーとしてだけではなく、クリエイターとしても活動をしている。また、大御所振付師のアシスタントを長年勤め、様々な作品に関わってきた。かれこれ10年くらいだろうか。彼女がかつて目標にしていたこと(憧れのダンサー・クリエイターと仕事をすること)は日本で一通り達成したという。
そして、彼女は改めてこれからどんな目標をもって日本でやっていくか考えた。
師匠はじめダンス業界を引っ張ってきた先輩方の姿を見てきて、今のダンス業界での身の立て方、仕事の取り方はわかっていて、それを続けることもできる。
けれど、それを続けるのかと思うと、もう人生の先が見えてしまっている気がして、ぞっとしたという。
だから、自らのやりたいダンスにもう一度向き合うために、Berlinに来たのだ。
今晩は、大きくて、熱があって、わくわくする話になった。
彼女は日本のダンス業界を変えたいと言ったから。
彼女が向き合ってきたダンス業界はどんなんなんだろう?
愚問かもしれないけれど、まずこんな質問を。
「ダンスで食べていけるんですか?」
答えはYESだ。しかし、「ダンス」と一口に行っても中身は様々だ。
ここで、今のダンス業界を分ける「エンターテイメント(商業)」と、「アート」という話が出てきた。
歌手やアイドル、ミュージカルの振付といった仕事の需要はたくさんあるし、バックダンサーの仕事もある。大御所振付師のアシスタントとして、出演者に指導をするという仕事もある。
仕事はある。エンターテイメント側に仕事はある。
けれど、本当にやりたいことなのか?というわれると、そうではなかったりする。
生計を立てるためにやっている仕事。それが、少なくともダンスに関わることだから、ダンスで食べていけているといえばそうかもしれないし、夢を叶えているように見えているかもしれないけれど、実際はそんなにシンプルではない。
生計を立てるための仕事と、やりたいことは別で、肝心のやりたいことで生活をするのはまだ厳しい。
彼女に限ったことではなく、先輩方も日本のダンス業界の中で仕事をしていくとすると、同じ構図になっている。
言ってみれば、やりたくないサラリーマンを生計のためにやっていて、それ以外の時間で好きな踊りをやるというのと同じといえば同じなのだ。
まあ、その構図はよくあることで、生活費は稼がないといけないし、しょうがないんじゃない?と思うかもしれない。もし、それが、自分ひとりの話なら、割り切ってそうすればいいと思う。
けれど、この構図が、ダンス業界(特にアートとして)の発展を妨げているとしたら…それは変えていかなくてはならないことだ。
具体的にどう悪循環になっているか。
簡単に言うと、作りたいアート作品を作ったとして、どれだけチケットが売れ、どれだけ出演するダンサーにお給料を渡せるのか。
現状の答えは、チケットはそれほど売れず、ダンサーにお給料も払えない。
いい作品は売れて、そうでない作品は売れない、というのならわかる。けれど、それ以前に、ダンスのアート作品の市場が小さすぎるというのが問題だ。良いも悪いも売れない。
おそらく、ダンスの作品を見に行くのは、現状では、自分自身ダンスにどっぷりな人たちだろう。
正直、そういった人たちが、そういった人たちの間で、チケットを売り合い、買い合っているに過ぎない。
たとえ大御所クリエイターの公演でも、ダンサーに十分報酬を払えていない、あるいは、そもそも払わない前提のことも多いという。それでも、その大御所の作品に出演できることはダンサーにとって憧れだったり勉強になったりするので、ダンサー側も無償を承知で出ているという。
ダンス作品を見に来る人を増やすこと。ダンスをやったことがなくても、たとえば映画を見に行くように、美術館に行くように、見に行くような文化をつくりたい。
それが彼女が変えたいと思っていることであり、私も心から賛同することだ。
以前記事にしたブリュッセルでダンス作品を見に行った時の事を彼女と話した。200名以上入る会場が満席。別にごりごりのダンサーというわけでもなさそうな人たちが老若男女問わず見に来ているのだ。今の日本では考えられない。
そういう文化を作りたい。
この話の続きはまた次回。
つづく…